大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

松山地方裁判所 平成4年(ワ)533号 判決

原告

被告

吉田泰三

ほか一名

主文

一  被告らは連帯して原告に対し、金二四〇七万四七一五円及びこれに対する平成三年一月三〇日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

三  この判決は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告の請求

主文と同旨

第二事案の概要

本件は、本件交通事故で死亡した徳山美保の両親である補助参加人両名に対し、自賠法七二条一項に基づき損害填補金二四〇七万四七一五円を支払つた原告が、被告両名には自賠法三条所定の運行供用者責任があり、原告が自賠法七六条一項に基づき右支払金額を限度として、補助参加人両名が被告両名に対して有する損害賠償請求権を取得したと主張して、原告が被告両名に対し、損害賠償金二四〇七万四七一五円及びその遅延損害金の支払を求めた事案である。

一  争いのない事実等

1  本件事故の発生

(一) 発生日時 平成元年一一月一〇日午前三時三〇分頃

(二) 発生場所 愛媛県温泉郡中島町大字宇和間字明神ノ木甲三番地一先県道上(以下「本件事故現場」という。)

(三) 加害車両 被告吉田が運転し、田中富久が所有する小型四輪乗用自動車(車体番号B二一〇―八二二六四二、以下「本件車両」という。)

(四) 事故態様

被告吉田は、平成元年一一月一〇日午前三時三〇分頃、本件車両を運転して本件事故現場にさしかかつた際、道路中央付近に佇立していた徳山美保に本件車両を衝突させ、よつて、美保に脳挫傷の傷害を与え、同日美保を死亡させた。

2  被告吉田の責任

被告吉田は、本件車両を運転中に本件事故を惹起したものであり、自己のため運行の用に供していた者であるから、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条による運行供用者として、本件事故により生じた被害者の損害を賠償する責任がある。

3  美保の権利の相続

美保の相続人は、父の補助参加人徳山年春と母の補助参加人徳山知津子の両名であり、補助参加人両名が美保の権利義務を各二分の一の割合で相続した(甲三の4)。

4  一部弁済金、損害填補金の受領

(一) 補助参加人両名は、国民健康保険から葬祭費一万円を支給され、被告吉田から香典五万円を受領した。

(二) 本件車両には、自賠法に基づく責任保険契約及び責任共済契約が締結されていなかつたため、原告は、自賠法七二条一項に基づき、補助参加人両名の請求により(甲三の1ないし4)、平成二年一二月一二日、保障事業の業務受託会社たる全国共済農業協同組合連合会を通じ、補助参加人両名に対し、損害填補金合計二四〇七万四七一五円を支払つた(甲四・五)。

二  原告の主張

1  被告野瀬の責任

被告両名は、田中富久が所有し、廃車としてスクラツプ置場に置かれていた本件車両を共謀して窃取した後、交代して運転中、本件事故を惹起したものであり、被告野瀬についても、自己のため運行の用に供していたものであるから、自賠法三条による運行供用者として、本件事故により生じた被害者の損害を賠償する責任がある。

2  被害者らの被つた損害

本件事故により、被害者らは、次のとおり合計四五三三万一九四一円の損害を被つた。

(一) 文書料 九八四〇円

(二) 入院雑費 一二〇〇円

(三) 葬儀費 一一七万二六一八円

(四) 逸失利益 二九一四万八二八三円

美保は、死亡当時高校進学予定の満一五歳の女子中学生であり、高校卒業後満一八歳で就労するものとし、就労可能年数四九年、生活費控除率三〇パーセントとして、賃金センサス平成元年第一巻第一表の産業計、企業規模計、学歴計、女子労働者の全年齢平均年収額二六五万三一〇〇円、死亡時年齢に対するライプニツツ係数一五・六九五に基づき、次式により計算した金額。

265万3100円×0.7×15.695=2914万8283円

(五) 慰謝料 一五〇〇万円

3  過失相殺、一部弁済

(一) 美保の過失割合を一割と認めるのが相当であるから、過失相殺後の損害額は四〇七九万八七四七円となる。

(二) 補助参加人両名が、国民健康保険から受領した葬祭費一万円、被告吉田から受領した香典五万円を控除すると、四〇七三万八七四七円となる。

4  自賠法七六条一項に基づく代位

原告が補助参加人両名に支払つた損害填補金は二四〇七万四七一五円であるが、被告らが右両名に損害賠償すべき金額は四〇七三万八七四七円であるから、原告は、自賠法七六条一項により、右損害填補金額の限度で右損害賠償請求権を取得したことになる。

5  結論

よつて、原告は被告両名に対し、損害賠償金二四〇七万四七一五円、及びこれに対する平成三年一月三〇日(損害填補日の翌日以降の日)から完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

三  被告らの反論

1  被告野瀬の責任について(被告野瀬の主張)

(一) 本件事故当時、本件車両を運転していたのは被告吉田であり、被告野瀬は本件車両を運転していなかつたのであるから、被告野瀬には運行供用者責任はない。

(二) 仮に右主張が認められないとしても、本件事故当時、被告両名の他橋本忠が本件車両を交代で運転し、美保も本件車両に同乗するなどして、一緒に遊んでいたのであるから、美保も被告野瀬同様本件車両の運行供用者であり、美保(その権利を相続した補助参加人両名)は、自賠法三条本文所定の「他人」に当たることを主張できない。

2  美保の逸失利益について(被告吉田の主張)

生活費控除割合は五〇パーセント、年平均収入額は一七二万五三〇〇円(賃金センサス平成元年第一巻第一表の産業計、企業規模計、学歴計、女子労働者の一八歳~一九歳平均年収額)とし、死亡年齢に対する新ホフマン係数二一・六八五二として計算するのが相当であり、右計算によると、美保の逸失利益は一八七〇万六七三七円となる。

3  過失割合について

(一) 本件事故は、被告らが美保ら数名と本件事故現場付近において、本件車両と単車二台を代わる代わる運転し、暴走行為を繰り返していた際の事故である。

(二) 美保は、被告吉田が無免許で運転技術も未熟であることを熟知していたのに、本件車両の進路前方の道路中央付近に漫然と佇立していたため、被告吉田が衝突を回避できなかつたのであるから、以上の事実に照らせば、美保にも四割(被告吉田の主張)ないしは五割(被告野瀬の主張)の過失がある。

四  争点

1  本件事故について、被告野瀬にも自賠法三条所定の運行供用者責任があるか。

2  本件事故により被害者が被つた損害額は幾らか、殊に美保の逸失利益が問題となつている。

3  本件事故についての美保の過失割合は幾らか。

第三争点に対する判断

一  争点1(被告野瀬の責任)について

1  本件事故の経過について

証拠(甲六の1ないし9、被告吉田本人、被告野瀬本人)によると、次の事実が認められる。

(一) 本件車両の窃取等

(1) 被告野瀬(当時中学三年生)は、平成元年一一月五日頃、かつて父親の野瀬俊一が所有していた本件車両が廃車されて、愛媛県温泉郡中島町大字小浜にある廃車置場に置かれているのを知り、同級生である被告吉田に対し、本件車両を窃取し乗り回して遊ぶことを持ち掛け、被告吉田もこれを了承した。

(2) 被告野瀬は、平成元年一一月八日夜被告吉田と前記廃車置場へ行き、本件車両に自宅から持ち出したガソリンを給油し、父親から譲り受けたスペアキーで本件車両を始動させ、被告吉田を助手席に同乗させて、本件車両を同町大字大浦にある中島町塵処理場付近まで移動させ、本件車両を窃取した。

(二) 本件事故当日の状況等

(1) 被告野瀬は、平成元年一一月九日学校で被告吉田、橋本忠(同級生)と相談して、同日夜三人で本件車両を乗り回して遊ぶことを決め、同日午後九時三〇分頃大浦港に集合した。その後、被告吉田に誘われた同級生の池下潤子、美保や一学年下の松本泰明も、遊びに加わることとなつた。

(2) そして、被告野瀬は、その主導の下に被告吉田、橋本らと共に、平成元年一一月一〇日午前〇時過ぎ頃から一時過ぎ頃にかけて、手分けして原動機付自転車二台を窃取し、更にガソリン入りポリタンクを窃取した。

被告野瀬、被告吉田、橋本、松本、美保、池下の六名は、本件車両を駐車させていた中島町塵処理場付近路上に集まり、被告野瀬と被告吉田は盗んできたガソリンを本件車両に給油した。

(3) その後、まず被告野瀬が所持していたスペアキーで本件車両を始動させ、橋本、美保、池下を本件車両に同乗させ、被告野瀬が本件車両を運転し、被告吉田及び松本が原動機付自転車を運転して、中島町塵処理場を出発し、同日午前二時頃本件事故現場に到着した。到着後、被告野瀬が被告吉田及び橋本に本件車両の運転方法を教示し、右三人が本件事故現場を起点として本件車両を交替で運転し、また前記六人全員が原動機付自転車を交替で運転した。

(4) なお、中島町塵処理場を出発後、本件事故が発生するまでの間に本件車両を運転した時間は、被告野瀬が約一時間、被告吉田が約三〇分余り、橋本が約三〇分であつた。

(三) 本件事故の発生状況等

(1) 被告吉田は、平成元年一一月一〇日午前三時二〇分頃、それまで本件車両を運転していた被告野瀬と運転を交替し、助手席に松本を同乗させて、本件事故現場から熊田方面に約一キロメートル離れた場所まで本件車両を運転し、同所で方向転換して、今度は本件事故現場に向かつて本件車両を運転した。

(2) そして、被告吉田は、同日午前三時三〇分頃、本件車両を運転して本件事故現場にさしかかつたが、その際、本件車両の速度は時速約一一〇キロメートルであり、道路中央のセンターライン上を走行していた。ちようどその時、本件事故現場では、被告野瀬が道路中央のセンターライン付近に立つて、海岸側の道路端に並んで立つている橋本と池下を写真撮影しており、美保は被告野瀬と並んで立つていた。

(3) 被告吉田は、四八・五メートル前方の道路中央のセンターライン付近に並んで立つている被告野瀬や美保を発見したが、クラクシヨンも鳴らさず、何らの制動措置も講じないままに、本件車両を美保に衝突させ、本件事故を発生させた。

(4) 本件事故現場は、西方に海、東方に蜜柑畑が広がる東西に延びる幅員六メートルの県道上で、歩道と車道の区別のない道路上であつて、夜になると自動車は殆ど通らない場所であつた。

2  運行供用者について

(一) 自賠法三条所定の運行供用者とは、自動車の使用についての支配権を有し、その使用により享受する利益が自己に帰属する者をいう。そして、運行支配については、直接的・現実的支配の実在は必ずしも必要ではなく、「自動車の運行について指示・制御をなしうべき地位」(最高裁昭和四八年一二月二〇日判決・民集二七巻一一号一六一一頁)、ないしは「自動車の運行を事実上支配・管理することができ、社会通念上その運行が社会に害悪をもたらさないよう監視・監督すべき立場」(最高裁昭和五〇年一一月二八日判決・民集二九巻一〇号一八一八頁)にあれば足りる。更に、運行利益についても、客観的外形的な考察によつて認めることができ、必ずしも現実的・具体的利益の享受を必要としない(最高裁昭和四六年七月一日判決・民集二五巻五号七二七頁)。

(二) これを本件についてみるに、本件では次の各事実が認められるのであり、被告野瀬が、本件車両の運行について、「指示・制御をなしうべき地位」ないしは「自動車の運行を事実上管理することができる立場」にあり、運行利益を有していたことも認められるので、被告野瀬は自賠法三条所定の運行供用者に該当する。

(1) 本件車両を窃取し、本件車両を乗り回して遊ぶことは、被告野瀬の発案によるものであること。

(2) 本件車両を窃取するのに必要なスペアキーの入手は、被告野瀬が行つており、更に、入手したスペアキーは被告野瀬が所持していたこと。

(3) 本件車両の窃取及び本件車両の運転に必要なガソリン等の窃取は、被告野瀬の主導のもとに行われていること。

(4) 本件車両の運転に当たつては、被告野瀬が被告吉田及び橋本に運転方法を伝授し、被告吉田及び橋本は、被告野瀬の指導の下で本件車両を運転していたこと。

(5) 本件事故当日の本件車両の運転時間は、被告野瀬が最も長時間であつたこと。

(6) 本件事故は、被告野瀬、被告吉田及び橋本の三名が本件車両を交替で運転していた最中に発生した事故であり、本件事故の直前までは被告野瀬が本件車両を運転しており、被告吉田は被告野瀬から運転を交替してもらつて運転中、本件事故を起こしていること。

3  他人性について

(一) 自賠法三条の「他人」とは、自己のため自動車を運行の用に供する者、及び当該自動車の運転者(運転補助者を含む)を除くそれ以外の者をいう(最高裁昭和四七年五月三〇日判決・民集二六巻四号八九八頁)。

(二) これを本件についてみるに、本件では次の(1)(2)(3)の事実が認められるのであり、美保が本件車両の運行について、「指示・制御をなしうべき地位」ないし「自動車の運行を事実上支配・管理することができる立場」にあつたとは到底認められず、美保が運行供用者に該当するものとは認められない。また、美保が運転者及び運転補助者でないことは明らかであるから、結局、美保は自賠法三条本文所定の「他人」に該当する。

(1) 美保は、本件車両の窃取や、本件車両の運転に必要なガソリン等の窃取に関しては、その事前共謀や実行行為には一切関与していないこと。

(2) 本件車両の運転は、被告野瀬、被告吉田及び橋本が行つており、美保は本件車両の運転を全くしていないこと。

(3) 美保は、被告野瀬が運転する本件車両に同乗した事実はあるが、それも短時間であり、本件事故当時は同乗していなかつたこと。

4  総括

以上の認定判断によると、被告野瀬は、本件車両の運行供用者であり、自賠法三条所定の運行供用者責任を免れず、本件事故により生じた被害者の損害を賠償する責任があることが認められる。

二  争点2(損害額)について

1  文書料 九八四〇円

証拠(甲一、二、三の1・2、三の3の1・2、八)、及び弁論の全趣旨によると、補助参加人両名は、原告国に対し自賠法七二条一項に基づく損害の填補請求をするに際し、診断書一通三〇九〇円、診療報酬明細書一通二〇六〇円、死体検案書一通三〇九〇円、交通事故証明書一通六〇〇円、その他印鑑証明書等一〇〇〇円、以上合計九八四〇円の文書料を必要としたことが認められる。

2  入院雑費 一二〇〇円

(一) 証拠(甲六の2)によると、美保は、本件事故後直ちに中島町立中央病院へ搬入されたが、既に死亡していたこと、補助参加人両名は、被告野瀬の父から連絡を受けて、直ちに前記中央病院へ駆けつけたこと、以上の事実が認められる。

(二) 右認定によると、補助参加人両名は、本件事故による入院雑費として、少なくとも一日分一二〇〇円程度の損害を被つたことが認められる。

3  葬儀費 一一七万二六一八円

(一) 証拠(甲九の1ないし25)、及び弁論の全趣旨によると、補助参加人両名は、美保の死亡により、火葬場使用料一万〇一〇〇円、葬祭具借用料六万二九〇〇円、御布施四〇万円、貸切バス代二万四七二〇円、料理代他六七万四八九八円、以上合計一一七万二六一八円の葬儀費を支出していることが認められる。

(二) そして、美保は死亡当時未だ中学三年生であり、美保の両親である補助参加人両名にとつて、美保の葬式を執り行い葬儀費を支出するなどということは、本来であれば通常起こらないことに照らせば、補助参加人両名が美保の葬儀費として支出した一一七万二六一八円全額について、本件事故と相当因果関係にある損害と認めるのが相当である。

4  逸失利益 二九一四万八二八三円

(一) 美保は、死亡当時高校進学予定の満一五歳の女子中学生であり、高校卒業後満一八歳で就労するものとし、賃金センサス平成元年第一巻第一表の産業計、企業規模計、学歴計、女子労働者の全年齢平均年収額二六五万三一〇〇円を基準に、就労可能年数四九年、生活費控除率三〇パーセントとして、死亡時年齢に対するライプニツツ係数一五・六九五に基づき、次式により計算した二九一四万八二八三円をもつて、本件事故による美保の逸失利益と認める。

265万3100円×0.7×15.695=2914万8283円

(二) 被告吉田の主張について

(1) 被告吉田は、美保の逸失利益を算定するに当たつては、賃金センサス平成元年第一巻第一表の産業計、企業規模計、学歴計、女子労働者の一八歳~一九歳平均年収額である一七二万五三〇〇円を基礎とし、生活費控除割合五〇パーセント、死亡年齢に対する新ホフマン係数二一・六八五二に基づき計算するのが相当であると主張する。

(2) しかし、年少者・学生の逸失利益を算定するに当たつては、「賃金センサスの全年齢平均年収額を基礎として、ライプニツツ式係数を使用」する方式(東京地裁方式)と、「賃金センサスの一八歳~一九歳の平均年収額を基礎として、ホフマン式係数を使用」する方式(大阪地裁・名古屋地裁方式)があり、原告主張の「賃金センサスの全年齢平均年収額を基礎として、ライプニツツ式係数を使用」する方式も合理的であつて、原告主張の方式を殊更排斥する必然性もない。

(3) 次に、生活費控除割合であるが、賃金センサス平成元年第一巻第一表の産業計、企業規模計、学歴計の女子労働者の全年齢平均年収額は二六五万三一〇〇円であり、同男子労働者の全年齢平均年収額は四一二万五二〇〇円であることから、年少者・学生の逸失利益を算定するに際し、男女間に著しい差異が生じないようにとの配慮から、実務では、年少男子の生活費控除割合を五割とし、年少女子の生活費控除割合を三割と認める場合が多く、本件でも、美保の逸失利益を算定するに当たり、原告が生活費控除率として三割を主張していることについて、格別不合理な点はない。

(4) 被告吉田の前記主張は採用し難い。

5  慰謝料 一五〇〇万円

本件事故は平成元年一一月に発生したものであること、美保は死亡当時中学三年生であつたこと、補助参加人両名は本件事故により最愛の娘である美保を亡くしたこと等に照らせば、本件事故による慰謝料は一五〇〇万円と認めるのが相当である。

6  総括

以上の1ないし5の合計四五三三万一九四一円が、本件事故により美保及び補助参加人両名が被つた損害である。

三  争点3(過失割合)について

1  本件事故は、被告らを始めとする遊び仲間六名が、本件事故現場付近を起点として、本件車両と単車二台を代わる代わる運転し、暴走行為を繰り返していた際の事故であり、美保は、被告吉田らが無免許で運転技術も未熟であることを熟知していたのに、本件車両の進路前方の道路中央付近に漫然と佇立していたため、本件事故にあつたことに照らせば、美保にも過失があることは明らかである。

2  しかし、被告吉田は、本件事故当時無免許で、制限速度を時速五〇キロメートルも超過する時速一一〇キロメートルもの高速で、暴走運転をしていたこと、被告吉田は、四八・五メートル前方の道路中央のセンターライン付近に立つている被告野瀬や美保を発見したが、クラクシヨンも鳴らさず、何らの制動措置も講じないままに、本件車両を美保に衝突させ、本件事故を発生させていること、本件事故が発生したのは午前三時三〇分という深夜であり、本件事故現場付近道路は、夜になると自動車が殆ど通らない場所であつたことに照らすと、被告吉田の過失は誠に重大なものであるといわざるを得ない。

3  以上の諸点に照らすと、美保の過失割合は二割と認めるのが相当である。

第四結論

一  以上の認定判断によると、美保及び補助参加人両名は、本件事故により四五三三万一九四一円の損害を被つたのであり、過失相殺後の損害賠償債権額は三六二六万五五五二円となり、これから、国民健康保険から葬祭費一万円、被告吉田からの香典五万円を控除した後の金額は三六二〇万五五五二円となる。

二  他方、原告が補助参加人両名に支払つた損害填補金は二四〇七万四七一五円であり、補助参加人両名が被告両名に対して有する損害賠償債権額未満の金額であるから、原告は、自賠法七六条一項により、右損害填補金額の限度で右損害賠償請求権を取得したことが認められる。

三  よつて、原告の本訴請求は全て理由があるから認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条・九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 紙浦健二)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例